歯周病の症状
概説
歯周病とは、口腔内の歯周病原性細菌(歯周病を引き起こす細菌)によって引き起こされる感染症です。
すなわち、細菌の攻撃に対する私たちの抵抗力つまりは免疫力が低かったり、細菌の活動性が免疫力より強かったりすると、歯周病は進行して、歯肉や歯槽(しそう)骨(歯の周りで歯を支えている顎の骨)などの歯周組織を破壊していくようになります。
一般に歯周病は、[1]歯肉炎と[2]歯周炎に大別されています。歯肉炎は歯肉に限局した 炎症で、歯槽骨や歯根膜(しこんまく:歯の根を取り巻く薄い膜)が破壊される段階までは進行していないものをいい、歯周炎は歯肉炎が進行して歯槽骨や歯根膜の破壊や吸収が生じる段階まで深く進行したものをいいます。以前は成人病とされていた歯周病ですが、近年では法的に生活習慣病と認定され、様々な全身疾患との相互的な関連性の研究報告もなされるようになり、歯周病の治療や予防に対する重要性は非常に高まりつつあります。
さて、歯周病の発症メカニズムについて簡単に説明します。通常、口腔内には正常な範囲で様々な細菌がバランスを保って存在しているのですが、これを口腔内常在細菌叢(そう)といいます。口腔内の環境を不衛生にしたままにしておくと、次第にそのバランスが崩れて病的な細菌叢を形成するようになります。それらの細菌を免疫力で排除できれば軽度の歯肉炎レベルの範囲で治まるのですが、免疫力が弱く、それらの病的細菌叢を排除できない場合、細菌は組織内の深くに進入し炎症と組織破壊を繰り返して歯周炎を進行させていくようになり、また全身へも波及していくようになります。これらの歯周病の発症メカニズムに直接的または間接的に関与して炎症のサイクルを助長する要因(リスクファクター)には、[1]局所因子、[2]全身因子、[3]環境因子といったのもがあり、これらが複雑に関与し合って発症する多因子疾患が歯周病です。それらの因子を具体的に示すと次のようなものがあります。
[1]局所因子
口腔不衛生(歯垢〈しこう:プラーク〉、歯石〈しせき〉)。病原性細菌。咬み合わせの不具合(不適切な修復物、不適切な矯正、歯ぎしり、食いしばり、舌習慣)。歯並び。歯の形態。
[2]全身因子
年齢。人種。体質。免疫学的異常、遺伝的疾患。ホルモン分泌異常。糖尿病。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)。
[3]環境因子
喫煙。ストレス。定期的な歯の検診。栄養バランス。不規則な生活。社会経済的環境。
これらの因子をできるだけ改善していき、免疫力を高めることが歯周病の治療と予防につながることになります。近年、予防という言葉がしきりに使われるようになっていますが、歯周病も予防によってかなり未然に進行を食い止めることができる疾患のひとつです。
症状/診断
歯周病は慢性疾患で、その病状は徐々に進行していきます。
症状は、歯肉炎の段階では、歯肉の赤みや腫脹(しゅちょう)、ブラッシング時の出血、しばしば疼痛(とうつう)などが主なものになります。この段階もしくは自覚症状がなくても定期検診などで歯科医院を受診していただくと、歯槽骨(しそうこつ)吸収などの組織破壊といった不可逆的な結果に至らずに良好な治癒経過を望むことができると考えます。
しかし、歯肉炎や軽度の歯周炎の場合、その症状は生活上支障をきたすようなレベルになることはごくまれですので、自己診断をしてしまい、そのまま放置してしまうケースが非常に多いのが現状です。
また、自覚できる炎症症状が一過性で治まったり、また発症したりを繰り返しますから、その症状が薄らいでしまうと治ってしまったかと錯覚をしてしまうことが多いのです。したがって、この段階で歯科医院を受診される方は、非常に少ないようです。
ところが、この歯肉炎や軽度の歯周炎の段階から進行した段階の歯周炎になると、知らず知らずのうちに炎症は深部に進行し、徐々に歯槽骨などの組織を破壊吸収していきます。
そうなると、歯と歯肉の間に「歯周ポケット」という病的な溝ができてきます。この歯周ポケットは歯槽骨と歯根膜が破壊されていくとそれに伴って徐々に深さを増していきます。
この深さが歯周病の進行段階の目安の1つになります。深さが増していくと、その間に入った歯垢や付着した歯石などは歯ブラシやうがいなどでは排出されず、歯周ポケットに残って長期にわたり歯肉や歯周組織を攻撃し、徐々に徐々に破壊吸収を進行していきます。
歯周炎の症状は、歯肉炎の症状に加えて口臭、排膿(はいのう)、歯の揺れ、歯肉の腫れといった症状が顕著に現れてきます。炎症が重度に進行した場合、歯を支えるだけの歯槽骨が破壊されてなくなり、歯の揺れや排膿、腫れ、疼痛などが激しく、物を噛めなくなったり、抜歯をしなければならなくなったりします。