口腔外科
概説
顔の中心から奥のほうへ数えて8番目の歯を親知らずといいます。この歯は生える時期が極端に遅く、平均寿命が短かった昔では親が死ぬ頃になって生えたことからこのように名づけられました。
正しくは、智歯(ちし)または第3大臼歯(だいきゅうし)といいます。
実際には、20歳前後に生えることが多いのですが、40歳代になってやっと生えることもあります。
歯は生物の進化とともに退化する傾向があり、そのために大きさは大臼歯の中では最も小さく、形も萎縮したような変形のバリエーションが多くみられます。人によっては、左右上下そろえば4本ある親知らずのうちまったくない人から、全部ある人まで様々です。
症状
この歯は、生える時期が遅いだけでなく生える力も弱いので、なかなか完全には生えません。
とくに下顎では、斜めになったり、真横に寝ていたりする歯(水平智歯)が多く、上顎では歯並びからはずれて外側を向いた歯が多いようです。
そのために、咀嚼(そしゃく)に関与することが少ないといえます。
親知らずが引き起こすトラブル
[1]むし歯
親知らずは最も奥まったところに生えるために、歯ブラシによる清掃が行いにくく、自身がむし歯になります。さらに、生え方が悪いと手前の歯との間に食べ物が残りやすく、手前の歯にもむし歯を作ります。
[2]智歯周囲炎
完全に生えず(半埋伏)に中途半端な状態が長く続くために、周囲の歯肉を刺激し続け、歯肉が痛んだり、腫れたりします(智歯周囲炎)。智歯周囲炎は数カ月から半年ぐらいの周期で再発を繰り返すことが多くなります。
[3]前歯の歯並びを乱す
とくに水平埋伏の状態や斜めに生える歯では、前のほうの歯を後方から押すために、前歯の歯並びを乱すことがあります。
[4]顎の関節に負担をかける
上下の親知らずが正しく噛み合わさっていないと、顎の関節に負担をかけます。
[5]歯肉を傷つける
向かい合う相手の親知らずが生えないと、伸びだして頬や歯肉を傷つけてしまいます。
標準治療
[1]智歯周囲炎の場合は、抗生物質や消炎鎮痛剤を内服します。
[2]歯肉を切除して萌出をうながします。
[3]抜歯します。
抜歯の時期
痛いから一刻も早く抜いてほしいといっても、一般的には炎症が強い時には抜歯をしないものです。
それは、炎症が強い時に、さらに抜歯という傷を加えると、痛みや腫れがますます強くなり、しかもそれが長期にひかなくなるからです。
場合によっては、炎症が拡大して扁桃周囲炎を起こしかねません。また、口が開きにくくなったり(開口障害)、顔面が腫れあがることもあります。
したがって、抗生物質や鎮痛消炎剤を投与して、炎症を抑えてから抜歯します。
予後/生活上の注意
智歯周囲炎で歯肉が腫れるたびに消毒と内服薬に頼って、一時しのぎにしている人が多いようです。
再発を繰り返す親知らずは、抜歯してもらう勇気を出して下さい。歯肉が強く腫れている場合には、当日の抜歯を避けて症状を治めてからにします。
また、難しい抜歯(難抜歯)で時間がかかる場合も、急患で駆け込んだ当日の抜歯はできないことがあります。
したがって、抜歯しなければならない親知らずを抱えている人は、症状が強く出ていない時に、ゆとりをもって治療に臨むことです。
難抜歯後は、抜歯創の消毒や抜糸など、術後も何度か通院しなければならなくなりますから、予定しておく必要があります。
どうしても抜きたくないならば、内服薬で症状を治めた後、むし歯や歯肉を腫らさないように徹底的に歯磨きを行う決意と実行力が問われます。